■
082:整
整えてしまうときみじゃないみたいくしゃくしゃな日々撫でて暮らした
083:拝
もう遠く逝ってしまった報せに拝む無力で非力な窓をふるわせ
084:世紀
まだ鍵をさがしているよ世紀末最後の扉がひらかれるまで
085:富
警笛をならしつづけたこの船に豊富な果実を積みすぎたから
086:メイド
真実の声をなくしたマーメイドおぼれた腕をつかめるように
087:朗読
そぼ降れば雨がつつんだ教室のきみの朗読ひびく世界史
088:銀
月あかり浴びて裏庭兄さんとひそかに吹いた銀の草笛
089:無理
無理やりに引き裂いて捨てて紙くずのようにちらばった過去
090:匂
ボールペンインクの匂いのキャップを閉じるあなたはいつも遠くを見てた
091:砂糖
あの頃は見えてなかった粉砂糖降りしきるもう肺の奥まで
092:滑
すれ違ういつかのぼくだ 滑る汗にじむ背中を見送りながら
093:落
落としモノ入れにはビー玉ひとつぶの泡よりもろいさけび声たち
094:流行
そういつもはやりの店にずらりならんだ流行りの靴ほど痛むつま先
095:誤
誤りをやりすごしては靴ひもがすりきれるほどえらぶ坂道
096:器
たぶんこの世の花器からこぼれ落ち そこであたしは息づいたので
097:告白
ぶ厚めのコートでそっと潮騒だけに聞かせてみせた告白だった
098:テレビ
独白(ひとりごと)抱えて会話をするように親しい深夜のテレビ番組
099:刺
刺青しておいたよ君との夏は 縁日のきんぎょみたいにするりと消えた
100:題
またいつか手にとるだろう題名(タイトル)は覚えちゃいない今日という日を