文学ト云フ事
今夜、報道ステーションを観ていたら「さよなら」のコーナーで
原ひさ子さんが亡くなったというのを改めて知った。たしか一回は耳にしたとは思ったけど、ああやって映像を見るとやはりしんみりしてしまうな
とてつもなく温厚そうで、ほんわりした梅の香でもただよってきそうな日本のおばあちゃんの代表的なお姿はいつみても安心感があった。それにも増して私が何よりこよなくすばらしいとおもっていたのは、あのおっとりとした春の縁側に寝転んでずっと聞いていたくなるような独特の楚々とした語り口だった
もうずいぶんと前、半年くらいだけやっていた「文学ト云フ事」という映画の予告編のようなものを文学(小説)でやるという斬新なスタイルの深夜番組があった
その番組のストーリーテラーとして総集編の時に起用されていたのが原さんだった。あまりにもはまり役で、そのほんのわずかな本の紹介をする語りの原さんのそこの部分だけがなんだかとても印象に残っている
あと(結婚してすぐ辞めてしまったデビュー間もない)井出薫ちゃんの初々しくかつレトロなヴィジュアルもあの番組を語るうえでは欠かせないほどしっくりしていた。
タイトルロールの懐かしいような曲調に合わせて、学生服(セーラーだったのかなぁ)にみつあみ姿で夕暮れどきのあぜ道を文庫本片手に一心にそこから目をはなさずに歩いていく光景が、ふるきよき時代ににタイムスリップするかのようにじつにノスタルジックだった
内容は武者小路実篤の「友情」や森鴎外「雁」、二葉亭四迷「浮き雲」、夏目漱石「三四郎」、田山花袋「蒲団」などなど小説のシーンの再現及び回想に、じつに印象的なインストゥルメンタルの音楽と大きな活字が、映画の予告編のごとくタテにバーンと出てくるのが新鮮で毎週たのしみにしていた
あれはたぶん番組製作者が視聴率とかを本来は意識しなくてはならないのに、ほとんど度外視し趣味やこだわりを貫いたような仕上がりになっていたので、そのはかなさも番組自体をひき立ててていたように思う
袴田吉彦君とか椎名桔平君もまだ駆け出しのひよっこ俳優でこの番組に起用されて後に即ブレイクした。(もうブレイクしかかっていたんだろうけどね)
そうそう不思議な魅力の緒川たまきさんをはじめて見たのもこの文学ト云フ事でだった。いまでも「トリビアの泉」でひとことだけぽそりと言う「ウソツキ」の台詞は、たまきワールド健在といった感じだ
なぜかこの番組には売れない若手芸人も多数起用されていて、そういった登場人物の無名性もまた趣だったような気がする
あの涙を誘うといわれる「野菊の墓」の政夫さんがどうしてだかバナナマンの日村君なのでそれが妙に滑稽なんだけど、かえって昔のリアリティを感じてなんだぐっときてしまったのは私だけかもしれないが
そうやって思い出していって、その最後にはやはり原ひさ子さんのあの笑顔とともにほのかに響く声で「解禁 解禁です 読みましょう」とメガネに指を添えながら本に眼をおとすあのラストシーンが忘れられない(バックには原田知世の透明なフランス語曲)
どこかそこから餃子数個とナスのミソ炒めを食べて、テレビを見てけらけら笑ってそのままねむるように亡くなったという現実の原さんが繋がっているようなそんな気がする
いま我が家のビデオは故障中なのだが、あの頃撮れるだけ撮った秘蔵版がじつはあるので本当はすぐにでも観たくなったのだけど、またいつか懐かしんでみたい(あぁ、少し泣いちゃいそう)そんなハチミツ色の思い出たちに今夜は寄り添いつつ眠ろうっと
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