冬の十首
〜雪は私の声になる〜
歳月のひきだしの奥のほころびをあらわにするよに啼くファルセット
誰も信じないなら私が信じましょうと手を伸ばしたまま吹雪になるとは
泣くまえに不安の種をくりぬいてまだるい焔(ほのお)にくべるてだてを
安らかな死体のごとき歌帖も睡りを解かれたがるや積雪
まほろばはここにもあるわかなしみのしるしはみえなくともねミチル
ひたはしる雲路に絶えまなくつづくたぶんここだとわかるための口笛
野ウサギが一匹迷い込んでいる真冬のシナモンミルクティ
感情を持つ冬空のもとふり返り 両手をひろげるように夕暮れ
そうあのくるしみの埋め草に、春 荒野の土に、小さな花を
ふくよかに散り降り堕ちてあるがまままっしろしろに押されてゆこう