はじまりという日
午後の誰もいない部屋で居眠りする耳に低く響いてくる
公園の噴水は何時までか
結局人間はひとりかとか
妙にしっくり馴染んでしまって、うとうと・・とぎれとぎれのトリップ
すべてをひっくるめてしまう包容力のある確かな支え
それはいつだったかカーディガンの中へ仔猫を入れて
キッチンでマシュマロ入りホットチョコレートをミルクパンで温めていた真冬
うすっぺらなスリッパの裏は冷たい床の冷気が張り付いていた
毛玉のところどころについた毛糸のソックスのずれをひっぱりあげ
ソファにごろっと寝転がる
カーディガンの中からもぞもぞと仔猫は前脚からはいだして
私ははふはふ湯気を散らしながらカップに口をつける
くちびるから喉まで伝わっていく過程の熱さが心地よかった
仔猫のひげはピンとして敏感で、尖った両耳をわざとつぶしてくしゃくしゃに撫でたら
ちょっと嫌そうな顔をしたけど、それでもすりよってふわふわ、ころころじゃれてくれた
それで・・・気がついたら寝息をたてて眠っていて
その夢のなかで見知らぬ駅で、顔も見たことのないけれど親密な人と
なつかしい再会なのかかけおちなのか
わからないような逃亡をしそうになって
だけどやっぱりちがう方向をお互いは目指していってしまった
あの仔猫はもう一年前にいなくなって
顔も見たこともない親密だった人が最初に出会ったとき
私に対して言っていた言葉がふいにこぼれおちてくる
それは短く けれど、一瞬で何もかもを射抜かれているようで
身じろぎしそうになり
私はいまでもその言葉にひるんだのか
はたまた居直ったのか
よくわからないままここにいる